「……っは、や、ごぉし」
一旦離した唇から、甘い声が漏れる。ぐずって体を離そうとするから、腰に回していた腕に力を込めた。
恨めそうな視線は無視して、滑らかな頬に口づける。唇で食んで、すぐに離す。場所をずらして、また食む。離す。
「ん、ん」
頬から、顎へ。顎から、首筋へ。
唇が肌に当たるたびに、愛染の甘い声とともにその体が震える。
いつもは透けるように白い肌が仄かに赤く、あたたかい。いい匂いがする。
ああ、美味そうだ。
出来るなら、齧りつきたい。歯を立てて、顎に力を入れて。
ここに、俺の歯型がつくと思うと、たまらない。
そんな欲を理性でグッと抑えて、再び目の前の肌に口づける。
抵抗するように押し返す腕をいなしながら、鎖骨を舐める。
「ご、し。も、……やぁ」
「ん、降参かよ?」
「んー、ぅう」
むずがって横に振られる頭を押さえて、もう一度唇を塞ぐ。舌を押し込んで、上顎に滑らせるように奥へ進ませると、組み敷いていた身体がビクッと震えた。
余談だが、俺の恋人は、それはそれは綺麗に泣くことが出来る。
シャワーの音で嗚咽を消して、バスルームでシクシクと涙を流す。全てを排水溝へ流した後は、何事もなかったかのような顔をして笑える。
映像作品に出演するなら、満点に近い点数を貰えるだろう。一部分を切り取っても絵になるはずだ。
なんて綺麗で、つつましい。いや、本当に。本当に、不愉快な泣き方だ。
昔から染みついたものなのか、それしか方法を知らないのか、何度言ったって直らない。
直らないならせめて、慰めさせてほしい。何もなかったよと笑う前に、慰めたい。
そうすれば、どこの馬の骨ともわからない“誰か”が原因で流す涙を、俺のものにできる気がした。
キレイに並ぶ歯列をじっくりとなぞって、満足したところで少し唇を離す。待ちかねたように息を吸うタイミングで、その唇に噛みつく。甘噛みした唇は、口紅なんかつけなくても、いつも少し赤い。
「……っ、やぅ」
嫌がって上がる声を飲みこむように口づけて、すぐに離して、今度は噛んだ場所を舐める。チロチロと唇の上を動く舌から逃げようと捻られた身体を、体重をかけて押さえつける。潤んだ瞳が雄弁に「もう、やめてくれ」と訴えてくる。
知ったことか。やめてくれと言っているのに、いつも聞く耳を持たないのは、お前の方だろうが。
訴えは無視して、後頭部を支えていた手で項をやらしく撫ぜる。くぐもった声と下がりきった眉に笑いが出た。
「愛染」
唇は離さずに名前を呼ぶ。声が少し掠れてしまった。自分自身の興奮が隠せないのが、ますます笑える。
くくっ、と堪えきれずに声が出て、それを聞いた愛染が不安げにコチラを見上げた。こういう時のコイツの緩い抵抗も、従順な態度も、ただ俺を煽る要因でしかない。だから、抗えない。
腰と後頭部を支えていた手を抜いて、両手で頬にそえる。あやすみたいに優しく撫でて、顔を逸らせないよう挟んで固定した。指の下の赤い頬が悩ましい。舐めたい。
「愛染」
「ごお、し」
否定の言葉じゃなく、俺の名前が発せられたことに満足して、ぐいっと顔を寄せる。舌を出して、欲望に忠実に頬を舐める。口をすぼめて、軽く吸って、また舐める。愛染の腕が、背中をなぞった。
「舌、出せ」
少しの躊躇の後、赤い舌がチロリと顔を出す。これでいいのかと問いかける目に頷いて見せると、赤い目元が緩んだ。支配欲がぐんと満たされる。
出された舌の先を軽く吸い上げると、ピチャリと音がなった。
表側に舌を這わせて、親指で裏側を撫で上げる。しゃくり上げるような甘い声が漏れて、それでも震える舌は引っ込むことはない。こういうところがたまらねえな、と思う。
手のひらをじりじり滑らせ、愛染の両耳を塞いだ。
「…ん、んッ……」
舌を口内に押し込んで、唾液の音が出るようにわざと大げさに絡ませる。前に思い立ってやった時は、頭の中で音が響いて変になるから嫌だと言っていた。今もそうなのだろうか。嫌だと言っても、やめるつもりはねえけど。
そう思っていると、背中に回っていた腕に力が入った。
息継ぎをするために、いったん離れて、また角度を変えて吸い付く。
愛染の目の端から、涙がほろりと流れるのを目の端で捕らえた。耳の方に流れていく雫を追って、人差し指で拭いとる。
キレイな涙だ。泣かせたくない、と思っているはずなのに、この雫一つにゾクゾクと気持ちが昂る。
「俺が泣いた日のセックスは、キスの時間が長い」と愛染は言う。言うだけで、だから嫌だとは言わない。
嫌だとしても、それは仕方ないと思う。お前が泣くのが悪い。おまえがわるい。
「……ごおし、」
「は、……なに、足りねえの?」
もぞもぞと動き出したソイツの下半身に、自分の高ぶりを押し付ける。物欲しげな蕩けた目が、たっぷりと誘惑を湛えていた。
「なあ、愛染?」
「……ッ、たり、ない。ほしいよ、剛士」
ギュッと抱きつかれたから、近づいた耳元にキスを落とす。
ぐずぐずになった愛染が、ぐいぐいと腰を押し付けてくる。いやらしい身体だ。
前髪の生え際をそっと撫でて、目の端の零れそうな涙に吸い付く。
それを了承の合図にした。
