開かずの間

 

オクタヴィネル寮には、「開かずの間」がある。この「開かずの間」は、先輩方が代々言い伝えてきたモノで、実際にある部屋である。
部屋のドアにはドアノブはなく、手で開けられるようにはなっていない。勿論、魔法を使っても開けられないことは歴代の寮長がすでに実行し、立証しているらしい。
そしてこのことは、寮長になるものへと引き継がれているのだと言う。

そんな訳で、前寮長から他の引継ぎ事項と共にその話を聞いた僕たちは、とりあえずその部屋を見に行くことにした。
フロイドが「オレたちで開けられちゃったら、どうしよっか~」と言いながら、スキップなんかしている。やる気があって何よりだ。
ジェイドも「それはいいですね。寮長としてはひよっこのアズールにも、箔がつきます」と言い、一言多いがこちらもやる気である。
かくいう僕も、「開かぬなら、こじ開けてみよう、開かずの間」という心持だ。
前提として、ドアがある部屋なのならば、開けられないということはないだろう。ドアは開けるものだし、部屋は使うものだ。
そう思いつつ3人で廊下を進む。
その部屋は、寮長室からまっすぐ進み、角を曲がって、もう一つ曲がって階段を降り、1年の4人部屋フロアをずんずん進み、深海魚の人魚用の仮眠室を過ぎ、備品倉庫を過ぎてもっと進んだところにあった。
というか、こんなところに誰が来るんだ。そんな風に思うくらい、寮の端っこまで来た。
フロイドが、「ここだね」と言って立ち止まる。
ジェイドが、「随分古めかしいドアですね」と言う。
そのまま右手を持ち上げ、トントントンとノックをした。
「何やってるんですか」
「ノックですが」
「何故?」
「誰か中にいるかもしれません」
誰がいるんだよ。もしいたって、返事など期待できないだろうに。すると、フロイドまで「おーい!誰かいる~?」と声をかけだした。
「返事なんかするわけないでしょう」
「分かんねぇよ?」
「分かりますよ」
僕はそう言ってマジカルペンを構えた。と、同時に「オレが先にやりたい!」とフロイドが前に出る。
「アズールが先に開けちゃったら、オレら面白くねぇじゃん」
そう言うが早いか、フロイトの持つマジカルペンから魔力が溢れた。唱えられたのは開錠の魔法だ。それは確かに対象に飛んで行ったものの、数十秒待っても何も起こらない。
「つまんね」
そう言って、フロイドはジェイドを見た。その視線に応じて、今度はジェイドが前に出る。
「では、僭越ながら」
と僕にチラリと流し目を送って、ジェイドが魔法をぶつける。フロイドとは違い、こちらはドアノブの形成呪文だ。
鍵穴のない飾り気のないドアノブが出現した。
ジェイドはマジカルペンを下ろし、その取っ手を握り引っ張った。そして首を捻り、今度は押す。
結果、フロイドも交じり2人がかりで引いたり押したりしたが、何も起きなかった。
「ダメですね」
「全然開かねぇ~」
2人がくたびれた声を出す。
「もー、厭きてきた。アズール、ちゃっちゃと開けちゃってよ」
フロイドが面倒くさそうに言って、そちらを指さす。
なので僕はまず、ずっと不思議で仕方なかったことを2人に聞くことにした。
「さっきから、2人とも何をしようとしてるんですか?」
「「は?」」
造形の似た顔が同時にコチラを向き、同じ音を発する。
「だから、このドアを開けようとしてんじゃん」
「取っ手のないドアにドアノブをつけることで、ドアとしての正しい役割を為してもらおうとしています」
何言ってんだコイツ、という目を向けられて、僕はムッとした。
そして、2人が開けようとしている“ドア”のある方を見る。
ドア、ね。
「その人型の赤黒い染みが貼り付いた壁が、あなた達にはそう見えるんですね?」
僕がそう口にすると、ウツボたちは目を見開いて驚き、壁の染みはニヤリと笑みを浮かべた。