返品期限内の恋人
!薄暗い
いくら大好物だからって、毎食タコ焼きは食べれねぇよ。
オレがそう言うと、アズールはぽかんと口を半開きにした。
「でも、好きですよね。タコ焼き」
「うん。好きだけどさ。でも、朝も昼も夜もタコ焼きだと、流石に厭きるだろ」
「厭きる」
オレの言葉をそのまま繰り返したその口は、まだ半開きのままだ。
目を見張り眉を下げ、アズールはショックを受けたという表情をした。
「好きなのに」
「好きでも限度があんじゃん」
「限度」
「そう。タコ焼きだけじゃなくて、ステーキとかパエリアとかパスタとか食べたい時もあるでしょ」
アズールの唇が震える。白い手をギュッと握って「じゃあ」と言う。
「じゃあ、僕のことは? 厭きますか」
「う~ん」
オレはその言葉に違和感を覚えながら、強張った肩を抱き寄せる。
意外と軽い身体がよろけて、難なく腕の中に納まった。
下を向いているから、オレにはつむじしか見えない。
「どうだろーね」
「分かりませんか」
「分かんない」
左手を顎に添えて持ち上げると、アズールの無機質なスカイブルーの瞳にオレが映った。結ばれた下唇に親指をそっと掛ける。薄暗い口内が少しだけ見えた。
「それは、僕が」
「黙って」
指はそのままで口づける。ビクリと震えた肩を逃がさないように掴んで、親指を口内へつっこむ。
くぐもった声を無視して上顎を撫ぜると、「んッ」と鼻にかかった吐息が漏れた。
それは、確かにアズールの声だった。
そっと唇を離して、アズールを観察する。
ギュッと瞑った目、オレの指を噛まないようにしている歯、苦しいのに動かない腕。
「かわいいね」
オレはそう声をかけながら、右手で彼の項部をさぐる。
襟足と耳の裏を結ぶ線のちょうど真ん中。そこをグッと押す。
「ふ、ろいど」
「おやすみ、アズール」
その瞬間、アズールはくたりと全身の力を抜いた。
いや、抜いたんじゃない。動かなくなったのだ。
オレはその身体をそっとソファーに横たえる。
キレイだ。
唇は薄く開き、瞼を閉じた、傷1つない身体。
ポケットから携帯端末を取り出して、電話をかける。
コール音が耳障りに思えるぐらい鳴った後、相手が出た。
「出んの遅ぇよ」
「そう言われましても、一体今何時だとお思いか。はぁ、これだから陽キャは」
ブツブツと文句を言いだす相手は無視して、用件だけを口にする。
「これ、アズールじゃない」
フツリ、と相手が黙った。
「アズールじゃねーよ、コレ」
オレは馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返す。鼻の奥がツンと痛んだ。
