フロアズではひふへほ - 4/4

返品期限内の恋人


!薄暗い

 

いくら大好物だからって、毎食タコ焼きは食べれねぇよ。

オレがそう言うと、アズールはぽかんと口を半開きにした。

「でも、好きですよね。タコ焼き」

「うん。好きだけどさ。でも、朝も昼も夜もタコ焼きだと、流石に厭きるだろ」

「厭きる」

オレの言葉をそのまま繰り返したその口は、まだ半開きのままだ。

目を見張り眉を下げ、アズールはショックを受けたという表情をした。

「好きなのに」

「好きでも限度があんじゃん」

「限度」

「そう。タコ焼きだけじゃなくて、ステーキとかパエリアとかパスタとか食べたい時もあるでしょ」
アズールの唇が震える。白い手をギュッと握って「じゃあ」と言う。

「じゃあ、僕のことは? 厭きますか」

「う~ん」

オレはその言葉に違和感を覚えながら、強張った肩を抱き寄せる。

意外と軽い身体がよろけて、難なく腕の中に納まった。

下を向いているから、オレにはつむじしか見えない。

「どうだろーね」

「分かりませんか」

「分かんない」

左手を顎に添えて持ち上げると、アズールの無機質なスカイブルーの瞳にオレが映った。結ばれた下唇に親指をそっと掛ける。薄暗い口内が少しだけ見えた。

「それは、僕が」

「黙って」

指はそのままで口づける。ビクリと震えた肩を逃がさないように掴んで、親指を口内へつっこむ。

くぐもった声を無視して上顎を撫ぜると、「んッ」と鼻にかかった吐息が漏れた。

それは、確かにアズールの声だった。

そっと唇を離して、アズールを観察する。

ギュッと瞑った目、オレの指を噛まないようにしている歯、苦しいのに動かない腕。

「かわいいね」

オレはそう声をかけながら、右手で彼の項部をさぐる。

襟足と耳の裏を結ぶ線のちょうど真ん中。そこをグッと押す。

「ふ、ろいど」

「おやすみ、アズール」

その瞬間、アズールはくたりと全身の力を抜いた。

いや、抜いたんじゃない。動かなくなったのだ。

オレはその身体をそっとソファーに横たえる。

キレイだ。

唇は薄く開き、瞼を閉じた、傷1つない身体。

ポケットから携帯端末を取り出して、電話をかける。

コール音が耳障りに思えるぐらい鳴った後、相手が出た。

「出んの遅ぇよ」

「そう言われましても、一体今何時だとお思いか。はぁ、これだから陽キャは」

ブツブツと文句を言いだす相手は無視して、用件だけを口にする。

「これ、アズールじゃない」

フツリ、と相手が黙った。

「アズールじゃねーよ、コレ」

オレは馬鹿みたいに同じ言葉を繰り返す。鼻の奥がツンと痛んだ。