フロアズではひふへほ - 3/4

ヒヤシンスを青色に変えるまで


フロイドは、「アズールじゃなきゃダメ」なんて言わない。

ああ見えて付き合いは悪くなく、容姿が良くてマメだから、アイツは友達や恋人に困らない部類だ。なんなら、複数の恋人を渡り歩いてだっていけそうなほど。

だけどその誰もが、「あなたじゃなきゃダメ」と言われることはないだろう。

アイツは、自分とジェイドとその他の境目に線を引いている。

と言うと、「お前もその他には入ってないんじゃないの」などと言うヤツもいるかもしれない。それも、今アイツらの近くに居るからそう見えるだけの話だ。

もしそう言われたら、答えは一つ。僕は「それはどうでしょう」と答えるほかない。

 

例えば僕が、1年くらい誰にも言付けず、何処かへ消えたとしよう。

僕の見立てでは、アイツらが僕を探す時間は、長くて1ヶ月だ。それで飽きる。

フロイドに至っては、2週間持つか持たないか。逆に、消えたことを面白がるのでは?

そして3ヶ月経つ頃には、僕の代わりを見つけるだろう。

リドルさん、ジャックさん、監督生さん。フロイドの興味を引く“面白いヤツ”が、この学園には少なからずいる。そして、彼は僕の声を忘れる。

半年経つ頃には、顔も忘れるだろう。モンタージュで似顔絵を作れと言われても、上手くいかないはずだ。目の色、ホクロの位置、輪郭。全てが思い出せなくなっているだろう。

「アズール? ……あー、いたねぇ。そーゆー名前のタコ」

一応知っているフリはして、心内では「そんな名前だっけなぁ?」と思うに違いない。

ならば1年後、僕が戻ってきた時、今いる場所に元の通り収まるわけがない。

だってそこにはもう、彼らに面白さを期待された誰かがいる。

だから、「あなたじゃなきゃダメ」に当てはまらない僕は、その他の奴らと一緒だ。

 

「否定はしねーけど。それだとオレ、ただのクズ野郎じゃん」

「でもお前、言わないだろ?」

「言わないねぇ」

フロイドは、ニヤリと口の端を上げた。

「言ってほしいの?」

「別に言ってほしいわけではありませんよ」

仮に「言ってほしい」と言ったって、声にする気もないくせに。

責めるように視線を送れば、フロイドは機嫌よく笑いだす。

「アハッ。確かに、「アズールじゃなきゃダメ~」って思ってないけどぉ」

「でしょうね」

「オレらを受け入れてくれて良かった、とは思ってるよ」

「は?」

「だから、これからもアズールで良かったって思わせてね」

言葉の意味を理解しようとしている間に、勝手に僕らの小指が絡んでいた。