ヒヤシンスを青色に変えるまで
フロイドは、「アズールじゃなきゃダメ」なんて言わない。
ああ見えて付き合いは悪くなく、容姿が良くてマメだから、アイツは友達や恋人に困らない部類だ。なんなら、複数の恋人を渡り歩いてだっていけそうなほど。
だけどその誰もが、「あなたじゃなきゃダメ」と言われることはないだろう。
アイツは、自分とジェイドとその他の境目に線を引いている。
と言うと、「お前もその他には入ってないんじゃないの」などと言うヤツもいるかもしれない。それも、今アイツらの近くに居るからそう見えるだけの話だ。
もしそう言われたら、答えは一つ。僕は「それはどうでしょう」と答えるほかない。
例えば僕が、1年くらい誰にも言付けず、何処かへ消えたとしよう。
僕の見立てでは、アイツらが僕を探す時間は、長くて1ヶ月だ。それで飽きる。
フロイドに至っては、2週間持つか持たないか。逆に、消えたことを面白がるのでは?
そして3ヶ月経つ頃には、僕の代わりを見つけるだろう。
リドルさん、ジャックさん、監督生さん。フロイドの興味を引く“面白いヤツ”が、この学園には少なからずいる。そして、彼は僕の声を忘れる。
半年経つ頃には、顔も忘れるだろう。モンタージュで似顔絵を作れと言われても、上手くいかないはずだ。目の色、ホクロの位置、輪郭。全てが思い出せなくなっているだろう。
「アズール? ……あー、いたねぇ。そーゆー名前のタコ」
一応知っているフリはして、心内では「そんな名前だっけなぁ?」と思うに違いない。
ならば1年後、僕が戻ってきた時、今いる場所に元の通り収まるわけがない。
だってそこにはもう、彼らに面白さを期待された誰かがいる。
だから、「あなたじゃなきゃダメ」に当てはまらない僕は、その他の奴らと一緒だ。
「否定はしねーけど。それだとオレ、ただのクズ野郎じゃん」
「でもお前、言わないだろ?」
「言わないねぇ」
フロイドは、ニヤリと口の端を上げた。
「言ってほしいの?」
「別に言ってほしいわけではありませんよ」
仮に「言ってほしい」と言ったって、声にする気もないくせに。
責めるように視線を送れば、フロイドは機嫌よく笑いだす。
「アハッ。確かに、「アズールじゃなきゃダメ~」って思ってないけどぉ」
「でしょうね」
「オレらを受け入れてくれて良かった、とは思ってるよ」
「は?」
「だから、これからもアズールで良かったって思わせてね」
言葉の意味を理解しようとしている間に、勝手に僕らの小指が絡んでいた。
