「寝てたのに身体がビクッとなって起きちゃったんだけど、アズールのせいじゃね?」「はぁ?」
夢の中でアズールと会った。食堂でムスッとした顔をして、「ピーナッツバターとハムのサンドイッチがマズい」と言う。何度も何度も言う。そうやって何度も言われるとオレは逆にピーナッツバターとハムのサンドイッチが食べたくなってくる。
アズールの文句は、もう「ピーナバムンドッチマジィ」って呪文になっていて、人間語なのかも怪しい。興奮して赤くなった頬っぺたがぷくっと丸くてリンゴみたいだ。おいしそうだなーって見ていたら、突然アズールが後ろに倒れてしまった。
危ないと思って手を伸ばしたけど、わずかに届かない。
アズールはそのままコロコロと転がっていく。しまった、下り坂だったみたいだ。
転がりやすいタイプなのか、アズールはどんどん遠くへ行ってしまう。
オレは慌てて追いかけた。だけど、全力で走っているのに全然追いつかない。
アズールは昔みたいにまるくなって、紫のゴムまりになっている。
「ピーナッバムドッチマジ」 遠くに行きながら、まだ呪文を吐いている。
もうわかったよ。マズかったのは分かった。分かったから、止まってよ。
オレはアズールの向かう先に、大きな崖があるのを知っているから、走りながら「アズールぅー!止まってよー!」と叫ぶ。あそこから飛んだヤツは、もう戻ってこないってジェイドも言ってた。もう、明日の朝ピーナッツバターとハムのサンドイッチを食べたりしないから、止まってほしい。
アズールが転がる道は、いつの間にかでこぼこの山道になっていて、くぼみやでっぱりに引っかかったゴムまりアズールが、ぽよんぽよんと跳ねる。
ああ、なんてこった。タコ焼きみたいにまん丸になってる。もうアレはアズールじゃなくて、タコ焼きかもしれない。そんな考えにもなってくる。
だけど、よく見てみるとアズールはこちらに手を伸ばしていた。いや、その手を伸ばそうとしてはひっこめ、伸ばそうとしてはひっこめを繰り返している。
転がって勝手に遠くへ行っているのはアズールなのに、どうして諦めたように手をひっこめるんだろう。アズールは困った顔で、口をパクパクしている。
「ピーナムドマジィ」 分かったから、ちょっと黙ってて!
「なんでピーナッツバターとハムのサンドイッチなんだよ!」
汗が目に入ってきてイヤだ。なんでこんなに走ってんだろ、オレ。
アズールの勢いは止まらないまま、崖が近づいて来る。
夢でゴムまりと飛び降り心中って、バカみたいで笑える。
次の瞬間、オレは崖から飛んだ。
