ぬいぐるみ(中)…… 1200マドル
雲に潰される夢を見たので、急いで目を覚ますと、零れんばかりのタコのぬいぐるみがベッドの上を占領していた。全て紫色をしているので、夜明けの海のようである。
それはそうと、僕の疑いの先は、すでに決まっていた。毎度毎度ろくでもないことをするヤツである。
ふにふにと触り心地の良いカタマリを避けて、なんとかその山から顔を出し、「フロイド!」と犯人の名前を呼ぶ。
「なに~?」と少し大きめのタコの辺りからふごふごと声がして、その辺を搔き分ける。
案の定、フロイドが埋まっていた。
「はぁ。何してるんですか」
呆れて出た僕のため息を無視して、彼はニコッと笑った。
「アズール、おはよ」
その途端、ポンッ、と音を立ててタコのぬいぐるみが増える。片手で持てるくらいの大きさだ。
「状況を簡潔に説明してください」
「んー。オレがアズールって言うと、タコちゃんのぬいぐるみが出るようになった」
ポンッ。1つ、ぬいぐるみが増えた。頭が痛い。
「いつからですか?」
「さっき。起きたら、こうなってた」
フロイドはぬいぐるみに囲まれて、「ふわふわで気持ちいーね」と上機嫌だ。
「ユニーク魔法か、それとも魔法薬? フロイド、何か変なもの食べましたか」
「食ってねぇと思うけど」
フロイドが昨日の朝食から食べたメニューを挙げていく。特に怪しいものはなく、お腹が空いた気分になるだけだった。
「困りましたね」
「そ? タコちゃん、可愛くね?」
「……そういう問題ではなく」
当の本人は「まー、そのうち治んじゃね?」なんて暢気なものだ。
一際大きなぬいぐるみをギュウギュウ抱き締めるのを見ていると、なんだか複雑な気分になる。
「僕の名前を呼ぶたびに増えるのはどうかと。今日は、違う名前で呼んでくださいよ。何でもいいですから」
「えぇ~。だって、アズールはアズールじゃん」
ポンポンッ。
「やめろ!」と言って、手で口を塞ぐ。コイツ、朝の時間だけでどんだけ増やす気だ。
「アズールは禁止です!」
「ふがふが、ふぐぅぐ」
ポンッ。……今度は、キーホルダーサイズのタコだ。何か法則があるんだろうか。
しかし、このままでは僕の部屋が、タコのぬいぐるみで溢れてしまう。
フロイドが、僕の名前を呼ぶばっかりに。
「ふぐぅぐ」と目を細めるウツボは、イタズラ小僧よりも大分厄介だ。ポンッ。本当に、どうしてくれようか。
とりあえず、増え続けていくぬいぐるみの処理であるが、モストロ・ラウンジでの売却も視野に入れようかと思う。
