フロアズでなにぬねの - 3/6

料理が食べられない


*死ネタ、微カニバ表現、注意!

 

「僕って、美味しそうでしょう?」と冗談めかして笑ったアズールが死んでから、1年がたった。

今、街にはアズールが溢れている。

アズールは死ぬ直前、愛用のタコ壺に1日1匹、自分のクローンを作り続ける魔法をかけた。

今日も相変わらず、タコ壺の中からアズールのクローンが生まれる。生まれる時のアズールはヒト型だ。

生まれ落ちたクローンは、生前のアズールと同じように「おはようございます」とツンとした声で言い、身だしなみを整える。必ずお気に入りのネクタイを締める。

朝食は、キャベツとベーコンのスープと季節のフルーツだ。

生まれたばかりのくせに口が達者で、「そろそろ桃の季節ではなくなりますよ」とか「梨が食べたかったです」とか言う。

オレは「そうだね」と言いながら、明日のフルーツは梨にしようと決める。ここで言う梨は、洋梨のことだ。オレはあんまり好きじゃない。

その後、アズールは近所をフラフラ散歩して、昼前には戻ってくる。

時々アズールは嬉しそうに、花束だったり、貝殻だったり、石や空き缶だったりを持ち帰ってくる。持って帰ってきたものは、タコ壺の周りに飾られる。

それから、一緒に軽い昼飯を食べ、午後は水産加工場へ行く。

オレが運転する車に乗って、遠足に向かう稚魚のような顔で、「美味しく食べてもらえるといいんですけど」とはにかんで頬を赤くする。その日の気分によっては、「大丈夫。アズールは世界一美味しいタコ焼きになるよ」と返してやる。

加工場の入り口には、オレたちが選りすぐった男が礼をした格好で待っていた。

「フロイド、ありがとうございました。いってきます」

「うん。いってらっしゃい」

アズールは白い手を振って、男の後に続いて加工場の中に入っていく。

あの中で、彼は人魚の姿になり、肉として、加工される。

明日以降、スーパーや魚屋には、アズールの肉が並ぶ。

バックミラー越しに見えるのは、赤紫の空に白い煙を吐き出す煙突だ。
目を凝らしても、アズールの姿はもうない。

アズールが好きだったジャズの曲をかけて、歌いながら帰る。

家に着くと、ジェイドが玄関まで迎えに来ていた。これも、習慣のようなものになっている。

「お疲れ様です。夕飯は用意してありますよ」

「うん。ありがと、ジェイド」

オレは食卓に着き、いつも通り、ディナーのタコなしのタコ焼きを頬張った。ジェイドの料理の腕は衰えるどころか日々上達しているのに、ソースの味しかしない。

ちょっとだけ辛い。