涙の味
涙の味を変えることができる魔法薬を作った。
何しろ涙というものは、直前に何を食べていても、どんな状況で流したとしても、等しく塩辛い水の味がする。
だから、ダメなのだ。
もっと、甘かったり辛かったりするといいのではないか。
と、いうわけで早速飲んでみた。
ごくり、と飲み下した魔法薬は、いつも通り、とびきり不味い。
下に残るドロリとした後味に顔を顰めつつ、水差しに手を伸ばす。
魔法薬を飲んだ後の水は、いつも通り、とびきり美味い。
「さて、」
この薬が成功しているのか、はたまた失敗しているのかは、生憎、薬を飲んだだけでは分からない。
そう、泣かなければいけない。
僕はまず、着けていたゴーグルを外し、実験着を畳んだ。
いくら人払いをしているとはいえ、実験室で泣くわけにはいかない。万が一、誰かに見つかれば面倒なことになる。
とはいえ、この薬がどのくらい効果がものかも分からないので、早急に自室に戻らなくては。
マジカルペンを振り、サッと片づけを済ませ、僕はいつもより早足で寮へと足を向けた。
そして寮の廊下で、おぶさりウツボに捕まった。
「なぁに、そんなに急いで」
「重いんですが」
「なんか、面白いことでも思いついたの?」
フロイドが実験着を指さして、口をニヤつかせる。魔法薬の匂いでも嗅ぎ取ったのだろう。
「ああ、そうだ。フロイド、僕を泣かしてください」
「はぁ?」
「検証が、まだなんですよ」
そう言って、薬の効果を説明する。
「殴ってもいいですし、罵詈雑言を吐いてもいいです」
とりあえず涙がひと粒出てくれればいい。僕はそう言って、ギュッと目を瞑った。
フロイドが、大きくため息をついた音が聞こえる。
何か言いたいことでもあるのかと言う前に、唇へやわらかいものが押しつけられた。
目を開く。目の前に口を尖らせた彼がいる。
「アズール、泣くとスゲー面倒になるから、ヤダ」
「は?」
「涙なんかよりさぁ、アズールの小言がキャンディーになる魔法薬とかの方が、面白くね?そしたら、毎日キャンディー食べ放題じゃん」
フロイドの指先が僕の唇をなぞる。その指は頬を通って、涙袋を何度か擦って、そっと離れた。
「美味しい方がいいかと思ったんです」
昨夜、僕の流した涙を、あなたが舐めたりなんてするから。
しょっぱい、なんて困った顔をするから。
「オレのせい?」
「フロイドのためです」
「じゃあ、尚更いらねぇよ。そんな薬」
そう言って彼は、「やっぱり小言キャンディーにしよ?」と笑った。
