Tiramisù
ボーッとした頭にヴィンヴィンという音が響く。
僕の手元で震えるブレンダーが、クリームチーズと生クリームと卵黄を休む間もなく混ぜ合わせている。
「それ、ちゃんと混ざってる?」すぐ隣でフロイドが、器にビスケットを適当に投げ込みながら聞いてくる。
「たぶん」
「たぶんじゃダメだってば」
辺りに濃いコーヒーの匂いがしているはずだけど、鼻が詰まっていてよく分からない。コーヒーの匂いは嫌いじゃないから、残念だ。
「ふんわりボテッとするまでちゃんと混ぜたら、おいしくなんの」
ちゃんと持って、という言葉と共に、後ろから右手を支えられた。
ボウルを支えている手が増える。
「砂糖は? 入れた?」
「……太るだろ」
「バァカ。オレ達も食べるんだから、ちゃんと甘くしてよ」
そう言ってフロイドはボウルの中にスプーン山盛りの砂糖を5杯半も入れた。なんてことだ。
「入れすぎ」
「てない。ほら、さっさと混ぜる」
ペチペチと右腕を叩かれて、渋々ブレンダーを持つ手を動かす。
僕が作業に集中するのを確認して、フロイドは四角いガラスの皿にビスケットを移しだした。ビスケットの数が心なしか少なく見える皿は、クリームの部分が好きなジェイドのモノだろう。
「アズールはカステラの方が好きだろうけど、今日はビスケットで我慢してね」
今度はちゃんとカステラで作ろうね、と笑いかける男を、ジロリとねめつける。
「稚魚扱いをするな」
「はぁ?」
引き出しの中からゴムベラを取り出して振り返ったフロイドが、物わかりの悪い奴に向けるような、呆れた目をした。
「違ぇし」
「何がですか」
スッと伸びてきた手が、ブレンダーを持つ僕の手を掴んで、スイッチを切る。ブレンダーはそのままその手にひったくられ、代わりにゴムベラが手の中に残った。
質問の答えが返ってこないまま、ガラス皿を顎で示して「3等分ね」と短い言葉がとんでくる。僕は少し不貞腐れながら、クリームを皿の中に分け始めた。
クリームをちょっとずつ入れる端から、フロイドがビスケットを放り込む。店に出すわけではないからいいけれど、ずいぶん雑だ。
「……アズールが言ったんじゃん」
「だから、何を」
全てのクリームを分け終えたところで、今度はボウルをひったくられた。
それをガタン、と流しに置きながら、フロイドが尖らせた唇を動かす。
「僕の“恋人”として元気づけてくださいよ、って」
言ったんじゃん、と彼にしては小さな声が、蛇口から出てきた水の音に混じった。
