月がほしいと言ってよ
欲張りなアズールって、かわいいと思う。
「アレが欲しい」「コレが欲しい」ってもっと言ってくれないかな、って考えてたら、口に出ていたみたいで、傍にいたジェイドに「物好きですね」って笑われた。
だけど、結構本気でそう思ってるんだよね。
アズールは、形のあるものとか価値のあるものが好き。
情だとか、思いだとか、ありふれた言葉だとか。そういうのは、目にも入らないって感じ。
オレがどんだけ「スキだよ」って言っても、「はいはい」って流されるのは、きっと言葉に形がないからだ。
もし「スキ」って言葉を形に出来るなら、折角だしアズールの好きな形にするのがいいと思う。
山盛りのマドル札とか、貴重な魔法石とか。
それがオレの「スキ」って気持ちをちゃんと表してくれるかは分からないけど、きっとアズールの目には価値があるものとして映るんじゃないかなぁ。何にしろ、それで喜んでくれるならいいじゃんね。
でも、残念だけど、オレの言葉はその形にならない。
オレがアズールにあげるべき形は、もう決まっている。
サンゴの海にいた頃、3人で月を見に海面に顔を出したことがある。
月を見に、というか、アズールの魔法薬を完成させるために、だったのだけど。
アズールが3日かけて作った魔法薬は、満月の光に当てなければ完成しないものだった。
1人で海面に上がるつもりだったアズールの後を、ジェイドと一緒にコッソリついていったのだ。後ろから脅かしたときのアズールの叫び声と表情は、今思い出しても笑える。
そうやってたどり着いた海面から顔を出したら、満月はオレたちの上にぽっかり浮かんでいた。それは思ったよりもずっと明るくて、隣にいたアズールの顔がはっきり見えるくらいだった。
だから、その時アズールの今よりぷくっとした手が、そっと月に伸ばされるところもバッチリ見えたのだ。キラキラした瞳に月だけを映して、焦がれるような顔をして、アズールは左手を伸ばしていた。
アズールがジェイドに声をかけられて我に返るまでのその数秒間を、オレはきっと忘れられない。
その手は、まっすぐ“月”を欲しがっていた。
オレは“それ”がとても羨ましかった。
あれから何度か月を手に入れようとしたけれど、いまだにオレの手は月に届いていない。
アズールは月の欠片みたいな石や色の似たコインを喜んでくれるけど、オレはちゃんと本物の“月”をプレゼントしてあげるつもりでいる。
だから一言、オレに強請ってくんないかなぁ。
