フロアズでさしすせそ - 2/6

最後から数えて1番目の人(魚)


 

日が昇るにはまだまだ早い時間、2匹はシーツの海で寝ころんでおりました。

「オレ、アズールより先に死なないから」

浅い眠りと現の間を彷徨いながら、ひょろりと長い1匹はそっと甘い息をこぼします。

その息は綿のようであり、飴のようでもあったので、もう1匹は誘われるようにその息を吸い込みました。

舌の上に広がったのは、コットンキャンディーの味なのでした。

「僕が、先に死ぬんですか?」

「そう。それで、」

彼はアズールと呼んだ人魚の色素の薄い髪の毛を耳にかけて、そっと囁きを耳に注ぐように耳打ちします。

「アズールがもう死んじゃうなって時に、こうやってちゃんと聞こえるように「スキだよ」っていってあげる」

だから安心してねぇ。

そう言われたアズールは、耳にかかる息が擽ったくて笑ってしまいました。

「ふふふっ」

「もう、ちゃんと聞いてよ」

彼が口を尖らせるのを見て、アズールは「もちろん、聞いてる」となんにもなかったように、真剣な顔をつくって答えました。

「……そしたら、オレがアズールの最後の男だよね」

最後の男、なんて。アズールは我慢できずに、吹きだしてしまいました。

「やめてください、やめて」

クスクスと笑いが止まらなくなってしまった彼の鼻を、大きな手がつまみます。

それでも笑いは止まりません。「ぅんっ」と変な声が出て、それさえもおかしいのです。

「いい加減にしろよ」

先程まで甘かった声が険のあるものに変わったので、アズールは下唇を噛んでなんとか笑いを止めました。

「アズール」

「らって、フロイド」

あなたがあまりに似合わないこというから。

鼻をつまんでいた手をどかしたアズールは、フロイドと呼んだ男の頬に手をやりながら言いました。

「もっと、自由な男でしょう? あなたは」

「薄情だって言いたいの?」

「奔放だって意味ですよ」

フロイドの眠たげな両目が、アズールの本意を図るように刺さります。実を言うと、2人ともとても眠たいのですが、なかなかどうしておしゃべりが楽しかったのでした。

「じゃあ、いい男ってことでしょ」

「そう、寝物語で冗談が言えるような、いい男ってことですよ」

彼が吐いた息は、コットンキャンディーの味でした。

ゆっくり、ゆっくりと、アズールの瞼が閉じていきます。

「ねむい?」

「ふろ、いど」

「うん。おやすみ、アズール」

返事はかえってきませんでした。フロイドはあくびをひとつしました。

そして、「冗談じゃないのに」と呟いて、目をとじるのでした。