最後から数えて1番目の人(魚)
日が昇るにはまだまだ早い時間、2匹はシーツの海で寝ころんでおりました。
「オレ、アズールより先に死なないから」
浅い眠りと現の間を彷徨いながら、ひょろりと長い1匹はそっと甘い息をこぼします。
その息は綿のようであり、飴のようでもあったので、もう1匹は誘われるようにその息を吸い込みました。
舌の上に広がったのは、コットンキャンディーの味なのでした。
「僕が、先に死ぬんですか?」
「そう。それで、」
彼はアズールと呼んだ人魚の色素の薄い髪の毛を耳にかけて、そっと囁きを耳に注ぐように耳打ちします。
「アズールがもう死んじゃうなって時に、こうやってちゃんと聞こえるように「スキだよ」っていってあげる」
だから安心してねぇ。
そう言われたアズールは、耳にかかる息が擽ったくて笑ってしまいました。
「ふふふっ」
「もう、ちゃんと聞いてよ」
彼が口を尖らせるのを見て、アズールは「もちろん、聞いてる」となんにもなかったように、真剣な顔をつくって答えました。
「……そしたら、オレがアズールの最後の男だよね」
最後の男、なんて。アズールは我慢できずに、吹きだしてしまいました。
「やめてください、やめて」
クスクスと笑いが止まらなくなってしまった彼の鼻を、大きな手がつまみます。
それでも笑いは止まりません。「ぅんっ」と変な声が出て、それさえもおかしいのです。
「いい加減にしろよ」
先程まで甘かった声が険のあるものに変わったので、アズールは下唇を噛んでなんとか笑いを止めました。
「アズール」
「らって、フロイド」
あなたがあまりに似合わないこというから。
鼻をつまんでいた手をどかしたアズールは、フロイドと呼んだ男の頬に手をやりながら言いました。
「もっと、自由な男でしょう? あなたは」
「薄情だって言いたいの?」
「奔放だって意味ですよ」
フロイドの眠たげな両目が、アズールの本意を図るように刺さります。実を言うと、2人ともとても眠たいのですが、なかなかどうしておしゃべりが楽しかったのでした。
「じゃあ、いい男ってことでしょ」
「そう、寝物語で冗談が言えるような、いい男ってことですよ」
彼が吐いた息は、コットンキャンディーの味でした。
ゆっくり、ゆっくりと、アズールの瞼が閉じていきます。
「ねむい?」
「ふろ、いど」
「うん。おやすみ、アズール」
返事はかえってきませんでした。フロイドはあくびをひとつしました。
そして、「冗談じゃないのに」と呟いて、目をとじるのでした。
