空想
世界の全ての時計よ、止まってしまえ。
そう思いながらするキスがある。そんなキスは、いつもより苦しい。
フロイドが塞いだ唇の間から注ぎ込まれた甘いものが、胸の奥に溜まっていく感覚。それが一定のリズムで激しく弾けて、僕の心臓を動かしている。そんな気になる。
呼吸はどんどん難しくなるのに、苦しくても鼻で息をするのは恥ずかしくてうまく出来そうにない。地上で溺れるなんて、海の中にいた頃に聞いたら「何をバカなことを」と思っただろう。こんな間抜けになるなんて、あの頃は思いもしなかった。
時々、フロイドの指が襟足を擦るから、頭もどんどん痺れていく。
きっと、幸せなのだ。だから、時が止まればいい。
止められないのなら、僕が死ねばいい。
死んでしまうのなら、やっぱり泡になって海に溶けてしまいたい。
だってフロイドが、もしうっかり僕の亡骸を好きになってしまったら、イヤだから。
死んだあと自分の身体に嫉妬するなんて、絶対にイヤだ。
それならいっそ、忘れられないように、強烈にいなくなってやりたい。目の前で泡になって、「これからもずっと好きです」なんて呪いの言葉を吐きたい。記憶から消せないような、醜い泣き顔でそう言ってやりたい。
最後の最後に僕が「面白くも何でもないヤツ」であったということに、気付いてしまえばいいんだ。
そして、僕がフロイドに好きでいてもらうために、「面白い」ことや「楽しい」ことを一生懸命考えていたことを知ってほしい。
……なんて、そんなわけないだろ。
僕はアイツが何にも知らないうちに、くだらない理由でもって、単純に、とっても苦しんで、死ぬのだ。そして、誰にも見つけてもらえないまま、朽ちて消える。きっと傍には誰もいない。
だって、僕がそうすると、もう決めているから。
口に出して言葉にしたりなんてしない。これは空想で、いつか現実にしたい願いでもある。
今、口の中にあるのは言葉ではなくフロイドの舌で、僕の舌を絡めとっては互いに熱くなっていく最中だ。苦しい、苦しい。
口を塞がれたら息が出来ないのに、どうしてキスなんかするのだろう。
気持ちいいからか。それとも、殺したいからか。
ドクドク動く心臓が、いつ爆発するのだろうと、ワクワクしたりするのだろうか。
ただの空想だ。頭がくらくらする。
瞑っていた目を少し開くと、フロイドと目があった。
このまま、本当に時が止まってしまえばいいのに。
そう願いながら、僕はそっと彼の首に手を回した。
