フロアズでかきくけこ - 2/6

噛み痕


アズールが初めて噛んでくれと言った場所は、二の腕だった。

「噛んでください。多少痛くても我慢します」

そう言って、シーツの波間からするりと右腕をオレに差し出した。

人間になったアズールの体は白くって、髪の毛も色素が薄いから、シーツに同化してしまいそうだ。たぶん彼は白いシーツより、黒や青のシーツの方が似合う。その上で手足を動かしたら、深海を泳いでるみたいで、きっと綺麗だ。

「骨ばっているから、美味しくなさそう」

「では、二の腕を」

近づいてきた身体を抱きしめて、言われた場所に口づける。擽るように唇で啄ばみながら、アズールを窺うと、彼は少し泣きそうだった。

「泣いちゃう?」

「泣きません」

「血、出ちゃうかもよ」

噛むならここにしよう、そう決めたところに舌を這わせる。弾力があって、そんで、やわらかい。

「やっぱり噛まないで」って言われたら、今ならギリギリ止められそうだけどな、と思う。

「現実かどうか、分からないから。痛いって、嘘じゃないんだって、思いたい」

でも、アズールはそう言った。

口を開く。肉に歯を立てる。ぐっと、顎に力を入れる。

食事の時と違うのは、“噛みちぎらない”ことだけだった。

アズールの体が痛みで跳ねるのを、両腕に力を入れて押さえる。小さく呻く声がシーツの海に転がり落ちた。

「フロイド」

潤んだ声に名前を呼ばれて、顎の力を緩める。やっぱ、泣くんじゃん。

ちょっと血がにじんでいる噛み痕にキスを落として体を起こすと、ちょうどアズールの左目から涙がこぼれるところだった。頬を伝い落ちていくのがもったいない気がして、唇で奪いとる。

「もー、うそつきぃ」

このタコちゃんは泣き虫のくせに、いつも泣かないと意地を張る。

だったら存分に泣かせてやろう、といつもやる気を煽られてしまう。

「ちゃんと噛んだよ。満足した?」

「ん」

「後で怒ったり、不機嫌になったりしないでよね」

「しません」

アズールは二の腕をジッと見て、ホッと息を吐いて、「キレイな歯形だ」と言った。

それから鼻を啜る。

「それに、僕は僕に痛いことをする相手ぐらい、ちゃんと選びます」

涙目のまま不敵に笑う彼は、涎が出るほど美味しそうで困った。

あーあ。いつまでも手加減してあげられないんだけどな。