ジェイド・リーチという男の話 - 1/3

! 最初から最後まで捏造たっぷり。

 

もしあなたが、今とても喉が渇いていたとしましょう。

水が飲みたい?いや、オレンジジュース?いやいや、ここはコーヒーかな。
そう思った時に、誰かがコーヒーを入れて差し出してくれたとしたら、あなたは偶然に驚きながらもありがたく思うはずです。ちょうど今飲みたかったんだ、と相手に伝えたりもするかもしれない。
そのコーヒーを飲んでいる時にふと「お菓子が食べたいな」と思うとします。
クッキー?チョコレート?いやケーキがあればいいのにな。
そう考えた途端、誰かがケーキの入った箱を差し出してくれたとしたら、どうですか。
あなたは重なった偶然に「とても運がいい日だ」と思い、さらに「明日は雨が降るかも」なんて不安がるかもしれない。それとも、食べたかったケーキにさらに喜びますかね。コーヒーにケーキなんて定番と言えば定番だけど、よくぞケーキを選んでくれたと感激して、感謝の言葉を相手に伝えたりするかもしれません。
そして、あなたはケーキの箱の中に「どんなケーキが入っているかな」と考えます。
苺のショートケーキ?モンブラン?フルーツタルト?いやいや、でもプリン・ア・ラ・モードだったらテンション上がる。いや、贅沢だな。ま、流石に偶然が続くわけがないし、ケーキなら何でもいいや。なんだろうな~。
そう思いながら、箱を開ける。そこには、プリン・ア・ラ・モードが入っていました。
そこで、コーヒーとケーキを用意した誰かさんがこう言うんです。
「きっとプリン・ア・ラ・モードの気分だと思ったので、用意しておきました。どうぞ、遠慮せずに召し上がってください」
あなたはいつも砂糖を入れないから、用意されたコーヒーの前にはミルクしかない。
ケーキを食べる時スプーンよりフォークをよく使うから、プリン・ア・ラ・モードの横にはフォークが用意されている。
……さあ、あなたはどう思いますか?
なんて便利な人なんだろう、と思います?
それとも、「怖いな」と思うでしょうか?
そっと、窺った誰かさんが何でもない風に笑っていたら?
(たまたま偶然が重なった?いや、そんなことある?……もしかして)
もしかして、この人に頭の中を全部読まれているのでは。秘密を知られているのでは。
そんな風に警戒してしまうかもしれない?
いや、そう思うのも仕方ないことですよ。言っておきますが、あなたを責めているわけではありません。だってそれって、普通の人なら当たり前に感じる恐怖でしょう?
自分のことが相手に筒抜けなんて、プライバシーの侵害にもほどがありますしね。
ところで、なぜこんな話をしたかというと。そんなことが出来てしまう誰かさんに、心当たりがあるからなんですが。

先ほどあなたにコーヒーとケーキを用意してくれたようなことを、彼は平気で出来るでしょう。
しかし、彼はあなたの頭の中を覗いている訳ではありません。
彼は、ただあなたについて知っていることから予想を、そして集めたデータに基づいた予測をたてているだけです。
だから、あなたのプロフィールぐらいは知っているかもしれませんね。紅茶よりコーヒー派だとか、レアチーズケーキが苦手だとか。そういうことは分かっているかもしれない。
それから、個人的にあなたのことを見かけたことがある可能性もありますね。
食堂でコーヒーを頼んだ時シュガーポットに手をつけていなかったとか、プリン・ア・ラ・モードがケーキの中で1番好きだと友達に喋っていたこととか。
種明かしをするなら、そういう情報を元に彼はあなたが1番嬉しいと思うだろうおもてなしをしただけなんですが。

思い出してみてください。あなたは嫌なことは何もされていないでしょう?
だとしたら、何がそんなに怖かったのでしょうね?
でも大丈夫。あなたはしばらくすれば先程の恐怖を忘れてしまう。
さらに、安心して。彼がしたのはただの予想だから、あなたが頭の中で彼をどう思ったかなんてことは、頭の中を覗けるわけではない彼には正確に伝わることはありません。
あなたが今後彼を避け始めても、全く問題はない。彼は避けられることを予想していますからね。でも、その誰かがあなたの全てを知っているのではないってことは保証します。
まあ、そんな人がいたとして、あまりお近づきにはなりたくないですかね?残念ですが。
おや、失礼。今のは独り言だから気にしないで。
……ああ、そうだ。言い忘れていました。
心当たりのあるその誰かさん。つまり彼の名前は、ジェイド。
ジェイド・リーチというのですが。