おみやげ
「はい、コレ」
小ぶりな袋を手渡しながら、フロイドがそう言った。
VIPルームの執務机でシフト管理表を制作していたアズールが、ドアの開く音に顔を上げて間もなくのことである。ノックの返事も聞かずに部屋に入ってくるのを叱るのは、もう諦めた。
白地に青い波線模様の入ったマチ付きの袋は、ふくっと膨らんでいる。渡されるがまま受け取ったアズールは、その硬い感触とずしりとした重さに眉をひそめた。
「フロイド、頼んでいたお使いはどうしたんですか」
「ちゃんと行ってきたよー。荷物は全部厨房に運んできたし。それは、プレゼント」
「プレゼント?」
「そー。自分の小遣いで買ったから問題ないでしょ?」
あー、疲れた!と去っていこうとするフロイドを、アズールは慌てて引き留める。
「ちょっと待ってください」
「えー?買いだし終わったら休憩していいって言ったの、アズールじゃん」
不満気な声で振り返る相手に、アズールは当惑顔で尋ねた。
「僕、今日誕生日ではないですよ」
「は?知ってるけど」
「え。じゃあ、何かの記念日ですか」
「何言ってんの」
「だって、プレゼントなんて、貰う理由が」
見当たらない、と彼は目を泳がせた。それを見て、フロイドは「あー」と気の抜けた声を出す。
「プレゼントじゃダメ? じゃあ、おみやげでいいよ」
「お土産」
いつもの市場に行ったお土産とは、これいかに。
呆然とするアズールの元に再び戻ってきたフロイドは、アズールの手から袋を抜き取り、袋を止めてあったテープを取り去った。そして、中身を取り出す。
「これ、ペーパーウェイトなんだって。果物屋の近くに雑貨屋あるじゃん。あの店先に飾ってあってー、海の中みたいできれいだなーって。アズール、きれいなもの好きでしょ?」
「あ、え、ええ」
「だから、喜ぶかもって思ってさー。はい、手ぇ出して」
言われて出した手のひらの上に、海の深い青を煮詰めたようなカタマリが乗せられた。
確かに綺麗だ。故郷の海の底も、こんな風に青かった。
ぼうっと見とれていたアズールは、ハッとしてフロイドを見上げた。
「た、対価を、何か」
「でた! アズールの対価!」
「タダより高いものは世の中にないんだよ」
「それ、何回も聞いたー」
対価ねぇ、と言いながら、フロイドは手に持っていた紙袋を弄る。
「あ! はい!」
「はい、フロイド」
「今度の休日は、オレと海の中で過ごしてよ」
紙袋をひらひらと動かしながら、彼は笑った。
「オレと、デートすんの!」
