エビフライ
ザクッと音を立てたのはジェイド特製のエビフライである。皿の上で寝ころんでいたところを、憐れ、腹をフォークで貫かれてしまった。そして、そのまま切り刻まれるわけでもなく、口に運ばれるでもなく、ぐりぐりと傷をえぐられている。
「アズール、食べ物で遊ぶのは感心しませんよ」
「遊んでなんかいません」
不貞腐れた声に、ジェイドの失笑が漏れた。すぐさまアズールの吊り上がった目が彼を捕らえたので、両手を上げて戦意があるわけではないことを示す。
「お言葉ですが、アズール。そういじくりまわしては、折角サクッと仕上がった衣も取れて只の揚げエビになってしまいます。あなたにおいしく召し上がっていただきたくて作ったものを無下にされるのは、かなしいです」
「それは、その、すみません」
実家がリストランテであるアズールは、出される料理にどれだけの手間がかかるものなのかもちゃんと知っている。揚げ物は油であげることばかりに目がいってしまうが、下ごしらえだって衣をつける作業だって、美味しさを引き出す大切な作業だ。エビの背ワタを取る作業は、なかなか面倒くさい。
アズールは右手に持っていたフォークを左手に持ち替え、ナイフを手に取った。腹を刺されたエビフライに当てて、サクリとした音とともに切り分ける。少しの赤と薄いピンクにも見える白の身が衣に包まれている。
「ソースもご一緒にどうぞ」
そっとタルタルソースの器を出されて、彼は困ったようにジェイドに目をやった。
「でも、」
「大丈夫です。カロリーを控えて作りましたから」
ウスターソースとそう変わりません。と断言されて、アズールはおずおずとタルタルソースをエビフライにつけ、その小さな口の中に招き入れた。と思うが早いか、パッと顔をほころばせる。
その表情をみて、ジェイドは密かに拳を握った。小さなガッツポーズである。
「うまっ」
「ありがとうございます」
衣は薄目、サクサク。エビは大きめ、ぷりぷり。エビの甘みとタルタルソースの酸味がちょうど良い。
あー、おいしー。
アズールは先ほどのエビフライに対する暴挙を今すぐ謝っても良いとさえ思った。
上機嫌でもう一口を口に放り込んだところで、ジェイドが水の入ったグラスをそっと寄せてくる。そして、徒にのたまった。
「エビに罪はないのですから、フロイドが監督生さんを揶揄うことぐらい許して差し上げては?」
アズールは二口目を楽しむことなく、丸々飲み込んでしまうハメになった。
