うわき
「浮気だ」
私室に入ってくるなり、そう言って頬を膨らませるフロイドに、アズールは「は?」と返すしかなかった。
浮気というのは、特定のパートナー以外の相手に関心を持つことではなかっただろうか。
乱暴にベッドに腰を下ろし、「うわきだ、うわきだ」と最近覚えた言葉をくりかえす稚魚のようになってしまったフロイドを横目に、アズールは小首を傾げた。
まず、前提としてアズールとフロイドは特定のパートナーではない。どういう関係だと言われれば、言葉にするのは難しいが、一番近い言葉で腐れ縁というヤツだ。何となく長くつるんでいる間柄、というヤツである。そこに劣情を挟んだ覚えはない。
次に、浮気ということを考えるのなら、浮気相手が必要になるわけで。その相手に全く身に覚えがない。アズールの関心は目下、モストロ・ラウンジの経営とそれに伴う損得勘定である。
アズールはとりあえず指一本でフロイドのうるさく動く唇を抑えた。
「さっきから、何の話をしてるんですか」
「もごごご」
「ちゃんとしゃべれ」
傍から見れば、何とも理不尽な言葉を放って、アズールは指をはなす。
「……今日、ウニちゃんといたでしょ」
「おや、よく知っていますね」
図書室でたまたまジャックと鉢合わせ、鏡の間まで本を運んでくれないかと“お願い”したことを言っているのだろう。しかし、それがどうして「浮気」になるのか。
「本を運んでもらっただけですよ」
「そんなん知ってるし」
ジトリとした目に見上げられて、アズールは他に何かあっただろうかと思い返してみる。
“そんなん”ということは、本を運んでもらったことに関しては「浮気」に入らないのだろう。
他に、と頭を捻る彼の目が、座っていることで少し低い位置にあるフロイドのつむじを捕らえた。
(もしかして、)
アズールはその頭部にそっと手のひらを乗せ、撫でる。
「……」
「なんか言ってよ」
「よしよし、とかですか」
そう言った途端、彼の体はいつの間にか忍び寄っていた長い腕に引き寄せられた。
「ムカつく」
「それはそうと、これも浮気になるんですかね」
ねえ、フロイド。と楽しそうな声が腕の中から聞こえて、フロイドは大きなため息をついた。
